最初は触れられるとくすぐったいだけだったけど、最近ではそれが心地よいと感じられるようになっていた。


「昨日のお昼休みね、机にイタズラされた」


「そう」


後ろから、声が聞こえる。


すぐるは今、ベッドの上で私を後ろから抱きしめている。


腹部にからめられた手は、時々私の体を撫でてくれる。


いやらしい意味ではなく、優しく、安心するように。


「カッターで、傷つけられたの」


すると、すぐるは軽く笑った。


「テストの時、書きにくくて仕方ないな」


その言葉に、私も思わず笑ってしまう。


「そうじゃなくて」


「うん。大丈夫だったか?」


「私は全然大丈夫。直に傷つけられるワケじゃないから」


「碧の体を傷つける奴がいたら、ぶん殴ってやるよ」


すぐるは、こぶしを作ってみせる。


私はそのこぶしを優しく包み込み、指を絡ませた。


「あのね、すぐる」


「うん?」


「『長浜弥生』って人、知ってる?」

私の質問にすぐに返事はなかった。


「すぐる?」


振り返ろうとする私を、すぐるが痛いほど抱きしめて阻止した。


「そうしたの?」


すぐるの顔が見えないままで、そう聞く。


すると、すぐるは軽く息を吐き出した。


「なぁ、碧」


「なに?」


「俺、最初は気を強いからってだけの理由で、碧を選んだ」


「……そうなんだ」


「けど、今は違う」


すぐるが、私の首筋に軽くキスをする。