「ええ――っ!?」
受け取ったスマホの画面を覗き込みながら、目を丸くした花音が喚声を上げた。
「この……スノーベリーって、確かユッキーのペンネームだよね?」
花音が、スマートフォンの画面を私の前に翳しながら、視線だけは手嶋さんの方へ向ける。
雪実……そういえば確かに、さっきの話の中でそんなペンネームの話もでてたけど……。
「よくそんなの覚えてたわね、花音……」
「だってこれ、小説投稿サイトとかいうやつでしょ? ピンとくるわよ」
花音の手からスマートフォンを受け取ってもう一度よく見てみる。
小説投稿サイト『ユビキタス』――小説の執筆などしたことがない私でもどこかで耳にしたことがある、その界隈では恐らく超有名なサイトだ。
「ユビキタス小説コンテスト……大賞『タナトフォビア』……著者……」
スノーベリー!!?
画面から慌てて顔を上げ、手嶋さんと花音の顔を交互に見やる。
「ねっ?」
と、自分が発見したかのように得意気な花音とは対照的に、なぜか俯き加減で表情を曇らせる手嶋さん。
もう一度スマートフォンの画面に視線を落とす。
大賞賞金……二百万円……及びユビキタス文庫からの……書籍化確約!?
ま、マジで!?
「ちょ……ちょっと、すごいじゃない、手嶋さん! これ、手嶋さんのことなんでしょ!?」
もう一度顔を上げて手嶋さんに問いかけるが、しかし、相変わらず沈鬱な表情を浮かべる彼女に、当然ながら強い違和感を覚える。
「え? なに? これって、手嶋さんのことじゃないの?」
「いえ……私のことです」
「だったら! 凄いじゃない! 二百万だよ? というか、作家デビューだよ!」
「受賞は……辞退しました」
「ええ――――っ!!」
この叫びは、私と花音が同時に出した声。
ちょっと意味が、分からない。
手嶋さん、二百万円、書籍化、辞退……頭の中でさまざまな情報と格闘する。
「えっと……なんで?」と、再び口火を切ったのは花音。
「辞退のメールは昨夜送ったんですけど……週末を挟むので、公式な発表は週明けになると思います」
「いや、そういうことじゃなくて! 辞退の理由を訊いてるの!」
「それは……えっと、洵子さんに……」
「洵子さんって……えっと、ユッキーの継母さん?」
「はい……。女性が、そんな社会的な知名度を上げるような仕事をしたって幸せにはなれないと反対されて……」
「はぁ~~あ? どんだけ時代錯誤なのよ!? 女性が輝ける社会とか、どっかの偉い人だって言ってる時代だよ!?」
確かにそうだ。この件に関してだけは、花音と同意見。
アイドルやスポーツ選手を夢見るような話とはわけが違う。なんてったって、賞金も書籍化も目の前で確約されているんだから!
それをわざわざ断らせるなんてどんだけ意固地なのよ!?
「お父さんには? 相談してみた?」
「ユビキタスから受賞の事前連絡があったとき、洵子さんに話し辛かったので、最初にお父さんにはメールで……」
「そのときは、なんて言われたの?」
「子供のことは洵子さんに任せてあるから、ってメールが返ってきただけで……」
「そのあと、すぐに継母さんには話さなかったの?」
「うん……。一応、公式発表が出てはっきりしてから伝えようと思って。まさか私も、辞退させられるとまでは思ってなかったから……」
花音が、どうしていいか分からないといった様子で、両手で頭を搔きむしる。
「もういっそのこと、ユッキーが勝手に受け取っちゃったら!?」
「未成年だから契約には親の同意も必要だし……そもそも私、自分の銀行口座もまだ作らせてもらってないから……」
「あ―……、なんだろう? もったいなすぎて吐きそう! 二百万円って言ったら、えっと……五百円玉で――」
「四千枚」と、すかさず答えたのは周くんだ。
「そう! 四千枚! って、数が多過ぎてピンとこないっつ―の!」
そもそもなぜ五百円玉に換算?
「そうだ!」と、花音が何かを思いついたように拍手を打つ。
「あたしがユッキーの変わりに受賞するよ!」
「それは、無理です。本名も登録してるし、メールに住所氏名も記載したし……そもそも権利の譲渡は規約で禁止されてるから……」
「黙ってればバレないって! 脳みそ堅い! 堅すぎだよユッキー!」
花音の脳みそは豆腐か?
「そんなこと言ったって花音、銀行口座はどうするつもりよ?」
横から口を挟んだ私に、花音が呆れた顔で向き直る。
「まったく咲々芽も、物を知らないなぁ……。なんか、あるじゃない? 名義貸し?みたいな」
花音だって分かってないじゃない。
「それ、普通に違法行為だからね?」
「そういうの、上手くやってくれる人とか、いるんだよきっと……」
「例えば?」
「え―っと、例えば……組織の? ……シンジケート? みたいな……?」
あやふやだなおい!
仮にそんなのがあったとしても、花音にコンタクトは取れないでしょ。
「とにかく、そういうのはダメ! 花音だけじゃなく、手嶋さんにまで迷惑かかっちゃうじゃない」
「ふぇ~ん……勿体無いよ、二百万円……。ユッキーの継母さんは賞金のことも知ってるの? もらえなくてもいいんだって?」
「二百万円くらいでは考えを変えないと思う」
「二百万くらいって! どこぞのセレブか!」
間違いなく、N市のセレブだよ。
受け取ったスマホの画面を覗き込みながら、目を丸くした花音が喚声を上げた。
「この……スノーベリーって、確かユッキーのペンネームだよね?」
花音が、スマートフォンの画面を私の前に翳しながら、視線だけは手嶋さんの方へ向ける。
雪実……そういえば確かに、さっきの話の中でそんなペンネームの話もでてたけど……。
「よくそんなの覚えてたわね、花音……」
「だってこれ、小説投稿サイトとかいうやつでしょ? ピンとくるわよ」
花音の手からスマートフォンを受け取ってもう一度よく見てみる。
小説投稿サイト『ユビキタス』――小説の執筆などしたことがない私でもどこかで耳にしたことがある、その界隈では恐らく超有名なサイトだ。
「ユビキタス小説コンテスト……大賞『タナトフォビア』……著者……」
スノーベリー!!?
画面から慌てて顔を上げ、手嶋さんと花音の顔を交互に見やる。
「ねっ?」
と、自分が発見したかのように得意気な花音とは対照的に、なぜか俯き加減で表情を曇らせる手嶋さん。
もう一度スマートフォンの画面に視線を落とす。
大賞賞金……二百万円……及びユビキタス文庫からの……書籍化確約!?
ま、マジで!?
「ちょ……ちょっと、すごいじゃない、手嶋さん! これ、手嶋さんのことなんでしょ!?」
もう一度顔を上げて手嶋さんに問いかけるが、しかし、相変わらず沈鬱な表情を浮かべる彼女に、当然ながら強い違和感を覚える。
「え? なに? これって、手嶋さんのことじゃないの?」
「いえ……私のことです」
「だったら! 凄いじゃない! 二百万だよ? というか、作家デビューだよ!」
「受賞は……辞退しました」
「ええ――――っ!!」
この叫びは、私と花音が同時に出した声。
ちょっと意味が、分からない。
手嶋さん、二百万円、書籍化、辞退……頭の中でさまざまな情報と格闘する。
「えっと……なんで?」と、再び口火を切ったのは花音。
「辞退のメールは昨夜送ったんですけど……週末を挟むので、公式な発表は週明けになると思います」
「いや、そういうことじゃなくて! 辞退の理由を訊いてるの!」
「それは……えっと、洵子さんに……」
「洵子さんって……えっと、ユッキーの継母さん?」
「はい……。女性が、そんな社会的な知名度を上げるような仕事をしたって幸せにはなれないと反対されて……」
「はぁ~~あ? どんだけ時代錯誤なのよ!? 女性が輝ける社会とか、どっかの偉い人だって言ってる時代だよ!?」
確かにそうだ。この件に関してだけは、花音と同意見。
アイドルやスポーツ選手を夢見るような話とはわけが違う。なんてったって、賞金も書籍化も目の前で確約されているんだから!
それをわざわざ断らせるなんてどんだけ意固地なのよ!?
「お父さんには? 相談してみた?」
「ユビキタスから受賞の事前連絡があったとき、洵子さんに話し辛かったので、最初にお父さんにはメールで……」
「そのときは、なんて言われたの?」
「子供のことは洵子さんに任せてあるから、ってメールが返ってきただけで……」
「そのあと、すぐに継母さんには話さなかったの?」
「うん……。一応、公式発表が出てはっきりしてから伝えようと思って。まさか私も、辞退させられるとまでは思ってなかったから……」
花音が、どうしていいか分からないといった様子で、両手で頭を搔きむしる。
「もういっそのこと、ユッキーが勝手に受け取っちゃったら!?」
「未成年だから契約には親の同意も必要だし……そもそも私、自分の銀行口座もまだ作らせてもらってないから……」
「あ―……、なんだろう? もったいなすぎて吐きそう! 二百万円って言ったら、えっと……五百円玉で――」
「四千枚」と、すかさず答えたのは周くんだ。
「そう! 四千枚! って、数が多過ぎてピンとこないっつ―の!」
そもそもなぜ五百円玉に換算?
「そうだ!」と、花音が何かを思いついたように拍手を打つ。
「あたしがユッキーの変わりに受賞するよ!」
「それは、無理です。本名も登録してるし、メールに住所氏名も記載したし……そもそも権利の譲渡は規約で禁止されてるから……」
「黙ってればバレないって! 脳みそ堅い! 堅すぎだよユッキー!」
花音の脳みそは豆腐か?
「そんなこと言ったって花音、銀行口座はどうするつもりよ?」
横から口を挟んだ私に、花音が呆れた顔で向き直る。
「まったく咲々芽も、物を知らないなぁ……。なんか、あるじゃない? 名義貸し?みたいな」
花音だって分かってないじゃない。
「それ、普通に違法行為だからね?」
「そういうの、上手くやってくれる人とか、いるんだよきっと……」
「例えば?」
「え―っと、例えば……組織の? ……シンジケート? みたいな……?」
あやふやだなおい!
仮にそんなのがあったとしても、花音にコンタクトは取れないでしょ。
「とにかく、そういうのはダメ! 花音だけじゃなく、手嶋さんにまで迷惑かかっちゃうじゃない」
「ふぇ~ん……勿体無いよ、二百万円……。ユッキーの継母さんは賞金のことも知ってるの? もらえなくてもいいんだって?」
「二百万円くらいでは考えを変えないと思う」
「二百万くらいって! どこぞのセレブか!」
間違いなく、N市のセレブだよ。