あの頃は翔が嫌いだったけど、会えなくなると何故か寂しかった。当たり前のように隣にいた存在だったからイジメられていたにも関わらず、最初は寂しく感じただけだった。

 試合も終わり、私は彩夏先輩と翔にインタビュー取材することになった。私はひたすらメモするだけだったけど、なんだか新鮮な気持ちになった。

 翔は私のことを覚えてくれているんだろうか?私もずっと覚えていた訳じゃないから、別に構わないけど、やっぱり完全に忘れられてたら寂しいなと思った。取材を終えて会社に戻ろうとした時だった。

「絵理、絵理だろ」

 翔に声を掛けられた。

「憶えてくれてたんだ」

「ちょっと、池田さん。早く会社に戻るわよ」

 彩夏先輩からの声が飛んできた。

「ゴメンね……翔。仕事がまだ残ってるの」

 私は名刺だけを翔に渡して会社に戻った。

「ねぇ、池田さんって……高木 翔と知り合いなの」

「実は……中学までは家が隣でした。高木くん高校は県外へ行って、それ以来会ってなかったんです」

「へぇー、幼馴染みってやつね」

「そうですね。イジメられてばかりだったので、当時は大嫌いでしたけど」

 私が話を終えると、彩夏先輩はニヤリと笑った。

「それって素直になれなくて、好きな子をイジメるってやつなんじゃないの。よく、言うじゃない。男は好きな子ほどイジメたくなるって、彼もそういう人だったんじゃないの」

「そうですか?。私には……分かりません」

「私の勘が当たっていたらの話だけどね。でも、案外この再会はチャンスかもしれないわよ。仕事だけじゃなく、恋愛も欲張って良いんだよ」

 彩夏先輩は、そう言って私の肩をポンと叩いた。