私は渉に言われるまま……ここに泊まる事にした。スィートルームなんて……夢のまた夢だと思っていたから。
ただ……こんな素敵な部屋に泊まれるなんて嬉しいはずなのに……1人で泊まるのは凄く寂しくて悲しい気持ちになった。
だけど別れ話を予感していたため不思議と涙は出なかった。
昨夜に自分の部屋で泣いたっていうのもあったからかもしれない。
「絵里……お互い仕事頑張ろうな。俺達……ただの同僚に戻ろう」
そう言って、渉は私の前から去って行った。広いスィートルームに残された私は、一人になった途端に急に涙が溢れてきた。
渉がいる間は、涙が出なかったけど、一人になったら涙が止まらなくなった。
だけど……泣いてすがり付くほど、私は強くなかったので、別れを受け入れるしか出来なかった。
私は渉を本当に心から愛してたから……別れる時も無理をして笑ってみた。
最後に遠くなってゆく渉に向かって「ありがとう」と聞こえるはずがないことを知りながら叫んだのだった。
一つだけ贅沢を言うと、せめて誕生日だけは一緒に過ごしたかった。
でも、それはもう絶対に叶わない願い。またいつか、きっと……笑って恋をする日が来ることを信じたい……仕事と恋は、反比例するって本当なんだね。
私は仕事で出世した途端に、恋を失ってしまったのだった。