翌日、出勤すると渉に話し掛けられた。
「あのさ、大事な話があるから……今夜、空けてくれないか……」
「……空いてるよ」
私はすぐに別れ話である事に勘づいた。もしかして、渉も昨日……私に気付いたのかな。渉の気持ちはもう私には向いてない事は間違いないと思った。
春香にはこの事をメールで連絡してみると、返信内容は『頑張ってね』の一言だけだった。
そして夜……渉との待ち合わせ場所へと足を運んだ。心なしか足取りは重くなる。
まずは二人で高級ホテルのレストランでディナーを楽しんだ。
その後……最上階のスィートルームへ移動して、高級なワインを開けて乾杯した。大切な話が別れ話だと思っていた私は、今の現状に心の中で舞い上がっていた。
そして……渉は私が芸能記者からスポーツ記者へ異動になったことを心配してくれた。
「絵理……サッカーの取材とか慣れたか」
「まだまだだよ。芸能とスポーツは取材も全然違うから思った以上に大変だよ」
すると……渉の表情が、さっきまでと一変した。
「絵理、仕事頑張れよ」
「うん、もちろん頑張るに決まってるじゃない」
渉は私を心配してくれてるから……安心感を覚えていた。
「じゃあ、本題に入るな」
「……」
「大事な話があるって言ったじゃん」
「そうだったね……」
ついに来たか……と思った。
「俺たち、別れよう」
やっぱり……予想通りの別れ話だった。
「他に好きな人が出来たんでしょ。昨日他の女性と歩いている所を見ちゃったんだ」
「そうか……それなら話が早いや。今日はこの部屋に泊まってもいいから。心配しなくても金は俺が払うから」
「渉は、帰るんだよね」
「当たり前だろ。俺の最後のプレゼント受け取ってくれよ。絵理は悪くないんだからさ、俺が他に好きな女性出来てしまったのが悪いんだから」