私はついこの前まで渉が好きだったんだよね。でも今は、翔のことしか考えていない。
あんなに好きだったのに、もう既にその気持ちはなくなっている。
今、考えてみると渉とは喧嘩らしい喧嘩なんてしたことなかった。対照的に翔とは、くだらない喧嘩口調ばかりしてる。それが楽しいから、翔だけは失いたくないって本気で思ってる。
私は今なら胸を張って言える。『翔が好きだって』渉が帰ってから間も無く翔がやって来た。
「絵理、さっきの男は誰なんだよ」
「元カレ。この忘れ物を届けに来ただけだから」
私は渉が持ってきた『オルゴール』を見せた。
「やり直したいとかは言われてない?」
「うん、だって翔と再会する一ヶ月前に別れたばかりだし、それは絶対に有り得ないかな。他に好きな人が出来たって言われてフラレたんだから」
「そうか……良かった。お前、俺がヤキモチ焼きだって知らないだろう」
「うん、知らない。もしかして妬いてるの」
「スッゲー妬いてる」
翔が妬いてくれるなんて、なんだか嬉しかった。そして少しふてくされた表情をしている。
「しょうがないから、キス一回で許してやるよ」
「分かった」
私は自分から翔にキスをした。
「ねぇ翔、これで満足してくれた」
「全然足りねえけど、まぁ良いや。俺は絵理のこと離さないから」
「私も翔だけだよ」
そして今度は翔がさっきよりも深いキスをしてきて、私達はずっと一緒にいる約束をした。翔の言う通り、この再会は運命だったんだ。