そんな日々の中、依と初めて会話をしたのは去年の7月頃。
その日も僕は放課後図書館へ立ち寄った。
目的はもちろん勉強。……と、その合間の息抜きに小説を書くため。
家では父の存在が邪魔をして集中できず、主に図書館で小説を書いていた。
パソコンはなにかの弾みでデータを父に見られては大変だし、スマートフォンを使うのも苦手だ。
そんな僕は、日頃からノートに小説を書いていた。
その時書いていたのは、感情がない主人公の男子高校生が自分探しの旅に出る話。
行く先々で様々な人と出会い、経験を経て知らなかった感情を得ていくというものだった。
誰に見せるわけでもない、ただ想像をぶつけるためだけのノート。
そこには素直な気持ちや、普段なら口に出せないようなくさいセリフもすらすらと書けた。
物語を綴ることは、僕にとっての息抜きであり密かな楽しみだったんだ。
その日も閉館時刻間際まで集中して、勉強の合間に小説を書き綴った。
そしてそろそろ帰ろうかと廊下に出た時、ある人とぶつかってしまったのだった。
『ひゃあっ』
その相手こそが依で、ぶつかった拍子に互いに勢いよく尻餅をついた。
うっかり開けっ放しだった僕の鞄からはノートや参考書が飛び出し散らばったけれど、それを拾うより先に、僕は彼女へ手を差し出した。
『悪い、大丈夫か』
『いてて……うん、大丈夫。こっちこそごめんね』
あ。あの有名な『橘依』だ。
明るい色の髪と、ぱっちりとした目に輝くガラス玉のような瞳。
それらが目に入った瞬間にすぐ気がついた。