「あっ、依だ。今日カラオケ行かないー?」
「ごめーん、今日洸太と約束してるんだ。また今度!」
元気のいいその声を聞いて『来たか』と察すると、僕は鞄を持って席を立つ。
そのタイミングで、開いたままだった教室のドアからは、ひとりの女子がひょこっと顔を見せた。
「洸太!帰ろー!」
そう僕の名前を呼んで笑うのは、今さっき廊下から聞こえていた声の主だ。
彼女はふわふわに巻いた明るい茶髪を揺らし、派手なネイルをした手をこちらへ振った。
その彼女の姿を見て、僕はにこりともせずドアの方へと向かう。
「依。そんなに大きな声で呼ばなくても聞こえてる」
「あはは、ごめん!」
謝るその声もまた大きいことに呆れながら、僕は依と並んで廊下を歩く。
「カラオケ行かなくてよかったのか?僕といても、どうせ今日もいつもと同じところしか行かないけど」
「いいのいいの。私は洸太といたいんだもーん」
依はそう言って、僕の腕にぎゅっと抱きついた。
自然と甘えるようなその仕草に一瞬かわいいと感じるけれど、周囲からの視線に気づいて僕はすぐさま依を腕から離した。