「これは……?」
「依の部屋を整理したら出てきたの。あの子、心臓の病気のことを自覚してから常に自分のやりたいことノートっていうのを作ってて」
厚めのノートを受け取りゆっくりとめくると、そこには依の丸い字が綴られていた。
やりたいことノートというだけあって、『駅前の新しいカフェに行く』、『憧れの美容室に行く』。
そんな些細なことから『ネイリストの資格を取る』と未来に向けてのことまで、さまざまな依の夢が綴ってある。
その中にはここ数日に叶えたことも書かれていた。
『るみちゃんにCDを返して、また一緒に遊びに行く』
『チヨさんの畑で洸太ととうきびを育てる。洸太においしいって言わせる』
『洸太の小説の続きを読む。洸太は絶対小説家になれるって伝える』
『瞭に大好きって毎日伝える。いつか離れてもずっとそばにいるよって教えたい』
『洸太と朝まで一緒にいる。ふたりで日の出見たいなぁ』
依のクセのある丸文字と、ハートマークだらけのノートだ。
それをひとつひとつ見るたび、彼女の願いを叶えられてよかったと、ここ数日のことが思い出された。
よかった、依はこれで思い残すことなく……。
そう思った瞬間、ノートの一番最後のページにこっそりと書かれた文字が目に入った。
『一番の夢は、洸太のお嫁さん』
そのひと言に堪えたはずの涙が一気にこみあげて、僕はノートを抱きしめ泣きじゃくった。