「洸太、早く早くっ」

「はいはい……」



こんな時間でも元気がありあまっている依に急かされ、苦笑いでついていく。

敷地内に入ると、ひと気のない湖畔沿いには僕の砂利を踏む足音だけが響いた。



「久しぶりに来たなぁ。瞭が生まれる前に家族で来たっきり」



僕の隣に浮きながら、依は懐かしそうに辺りを見渡す。



「遊覧船に乗って水中見て、すっごく綺麗だったの」

「それなら、もっと早く言えば昼間に来たのに」

「うーん、でもせっかくなら洸太とは違う景色が見たくて」



のんびりと湖の周りを歩き風にあたるうちに、熱くなっていた体は時間をかけて冷めていく。

少し休むかと湖のほとりに腰をおろすと、依も隣に座るように着地した。



夜空に浮かぶ満月の明かりが、水面を照らしている。



「それで、ここでなにがしたいんだ?」

「洸太と日の出が見たいなって」

「日の出?」



どうして、と問うように依を見ると、依はまっすぐ水面を見つめて言葉を続ける。



「私、明け方の空って好きなんだ。雲と雲の隙間から光が見えると、希望があふれるよね」

「あー……確かに。初日の出とか、拝みたくなる気持ちはわかる」

「でしょ!いつか洸太と日の出を見たいって思ってたんだけど、まだ高校生だからひと晩一緒にいるってできないじゃん?だから大人になるまでお預けかなって思ってたんだ」



こんな時にですらも、ラッキーだったね、なんて笑ってみせた。