車の多い大通りを抜けると、徐々に周辺の建物が少なくなり、緑が増えていく。
そして一本入っていくと、支笏湖へ続く専用のサイクリングロードに出た。
木々に囲まれ真っ暗な中、シャーとタイヤが回る音を聞きながら、自転車のライトの明かりだけを頼りに走っていく。
横には『熊出没注意』の看板が見えた。
「洸太、『熊出没注意』だって!気をつけてね!」
「いやそれ気をつけようがないだろ。会うときは会うんだから」
「熊と会った時は死んだふりがいいんだよ!私死んだふり得意だから任せて!」
「ふりっていうか死んでるし……」
僕のツッコミに、依は「確かに!」と笑った。
こんなのんきな会話をしていると、依が本当に明日にはいなくなってしまうのかわからなくなる。
けれどそれを考える余裕もなく、ペダルを漕ぎ続けること、3時間以上。
最後に長いゆるやかな坂をのぼりきり少し下ると、左手側に支笏湖の看板が見えた。
「つ、着いた……」
「おつかれー!」
今夜の気温はいつもより低いはずなのに、自転車から降りると汗が地面に落ちた。
長かった……。ふくらはぎがパンパンだ。
この前は畑仕事して、今日は自転車漕いで……ここ数日本当に慣れないことばかりしてるな。
駐輪場に自転車を止め、途中買った水を飲んでひと息つく。
腕時計を見ると、時刻はすでに深夜0時になろうとしていた。