「……聞いたか、依。お父さんの気持ち」



ぼそ、とつぶやくとふっと隣に依が現れる。

その顔は不本意そうな少し拗ねた表情だ。



「私がいたの、気付いてたの?」

「いや、全然。ただなんとなく依なら聞いてそうな気がしたから」



名残惜しくなる、そう言いながらも家族を大切に思う依ならどこかできいているんじゃないかと思ったんだ。

それは当たりだったようで、依の目は先ほどより赤く、泣いたのだろう跡が見えた。



「名残惜しくなっちゃうって分かってても、やっぱり、話が聞きたくて。矛盾してるよね」

「そういうものだろ。誰だってきっと同じだ」



めずらしくフォローする言葉をかけた僕に、依は濡れたまつげを伏せて笑う。



「でもありがと。お父さんのあの言葉聞いて、ちょっとすっきりした」



それは別れ際のあの言葉のことだろう。

少し清々しい様子で、依はふわりと宙に浮かぶ。



「よかった、これで安心して明日を迎えられる」



依はふふ、と笑った。けれど『明日』の言葉がこの胸にチクリと刺さる。



「……僕は、迎えたくないけど」



不可能とわかっていても、明日なんてこなければいい。

その願いを小さな声で口に出す僕に、依は笑った。