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「あ、すみません、そこの君」
「はぁい?」
野次馬の外側でチョロチョロ歩いてたら、制服を着た警官に声をかけられた。
さっきの殺しが私だなんて、夢にも思ってないんだろう。
私は得意のポーカーフェイスで警官に向き合った。
「目撃情報を探してまして……何か怪しい人や怪しいものを見ませんでしたか?」
「え、なんかあったんですか?私、人だかりが出来てたからなんとなく来ただけなんですけど」
「ええ、ちょっと傷害事件が……」
善良な警官だな。死んでるのは確実なのに殺人事件とは言わないんだ。
「そういえば、怪しいかは分かんないんですけど〜……でっかいギターケース持った人がそこの細い道入りましたよ。背が高いから男の人かな?」
私はさっきのビルの隣のビルの、さらに隣の細い道を指した。
警官は真面目に手帳にメモを取っていく。素直に私の話を信じてるらしい。
優しいけど、優しいだけじゃこのご時世やってけないぞと心の中でアドバイスした。
「そのギターケースというのは、どれくらいの大きさですか?」
「んー、私が持ってるのよりもうちょっと大きい感じかな?遠くからしか見てないから分かんないですけど。一瞬だったし、それくらいしかわかんないな」
「ありがとうございます。それだけでも十分です」
「いいえ〜おまわりさん、お仕事頑張ってくださいね」
「はは、ありがとうございます」
警官はビシッと敬礼してから、私がさっき指した方へ去っていった。
いやー、先入観って恐ろしい。
犯人は怪しい人。警官は真面目な人。見た目が派手な人は陽キャ……そう考えがちだ。
にこやかな犯人、不真面目な警察官、見た目が派手な陰キャってのは考えにくいものだ。