夕方6時になって退社したあと、一刻も早く三ツ谷という弁護士さんと連絡が取りたくて急いでマンションに帰る。

玄関ドアをロックし、部屋に入ってバッグを床に落とすように置くと、スマホに登録済みの番号を呼びだしてタップする。3コール、4コール、しばらくコールしてみても応答がない。諦めて通話を切る。・・・と。すぐに折り返しでかかってきた。

「も、もしもし・・・っ」

焦って上擦る声。

『新宮沙喜さんですね、初めまして。吉見の弁護を引き受けている三ツ谷と申します』

想像していたより柔らかい口調でその人は自己紹介をした。

『井上氏からも聞きましたので、お待ちしてました。・・・色々とご心配されているかと思いますが、一度そちらに伺ってお話させていただきたいのですが』

外ではしづらい内容になるのは確か。わたしは次の自分の休みを告げ、午後1時の約束を交わした。

干からびた心臓が少しずつ生身に還っていく気がする。乾ききった躰に何かが通い始めた気がする。

何より、ナオさんがわたしの存在を明かしてくれてたことにいちばん掬われていた。それだけで。報われたと思えたほどに。