電話がなかった日は定休日だった。しかも連休で、休み明けの木曜はクリニックがお休みだった。

金曜の朝、電車に乗ってるあいだも、駅から会社に向かって歩くあいだも。心臓が締め上げられたように呼吸がうまくできなかった。

もし。ナオさんの車がクリニックの駐車場に停まってたら。どうしよう。・・・どうしよう。

理由さえ言ってもらえないの?
なにも無かったことになるの?
わたしは。どうすればいいの?

嵐が吹き荒れる大海原にたった一人、小舟で放り出されたも同然だった。このまましがみついていれば助かるのか、死を待てばいいのか。

デザインチックな四角い建物の脇を足早に過ぎた。9時からの診療はもう始まっている。隣が駐車場。そこにあって欲しかったのか、そうじゃなかったのか。

いつもの定位置に見間違うはずもない車が置かれていたのを。視界に捉えた瞬間、小走りに駆け出していた。

泣きそうなのを必死に堪えた。
考えない。
いまは何も考えない。

壊れる。
壊れる。
壊れる。

声にならない声で叫びながら。息を切らせた。