「沙喜ちゃん、最近いいことでもあった?」

郁子さんに朗らかな笑顔で言われた。

いつもどおりに会社に行って、普段どおりの仕事をしてるつもりだったけど。彼女曰く電話の受け答えなんかかが前より、はつらつとしてるそう。

「うーんと、ちょっとだけありました」

知らずに浮かれてたのかと気恥ずかしい。照笑いで返せば、「あら良かったじゃない」と屈託ない郁子さん。

「まだまだ若いんだから、もっと人生は楽しまないと」

“いいこと”の中身までは追求されず、またパソコン画面に向き直った。




あれからナオさんは電話のたび、日課のように何か変わったことがないか確かめてくれる。

『もしかしたらしばらく会いに行けないかもしれないけど、大丈夫だから俺を信じてて』

電話を切る前には必ず、『ぜんぶ終わったら沙喜を迎えに行く』約束も忘れなかった。