顔は上げなかった。彼がどんな顔をしてても、知りたくなかった。答えが怖い気もしたし、終わる準備をしてる気もした。

失いたくなくても、自分の気持ちだけじゃどうにもならないことは、わたしには嫌ってくらい染みこんでるから。“慣れてる“。・・・呪文を唱える、傷みを麻痺させるための。

「・・・沙喜」

声がして、顎にナオさんの指がかかった。ソフトに持ち上げられたけど視線は合わせられずに。

「医師だからじゃなくてね、夫として俺ができることを全力で考える。どんな“薬”が効くのか、どうしたら沙喜が痛くなくなるのか考え続ける。沙喜は頑張らなくていいから、俺にちょっとだけ協力してほしい」

協力・・・?
優しく言い聞かせるみたいな響きに、やっと目を合わせると、穏やかに微笑む顔がすぐそこにあった。

「痛いこと、辛いこと、苦しいこと、悲しいこと、寂しいことは絶対に我慢しないですぐに言うこと。嬉しいこと、楽しいこと、して欲しいこと、して欲しくないことは遠慮しないでなんでも言うこと。いい?」