「・・・なんだろうね。ようやく沙喜の一番奥に(さわ)れた気がする」

頭の上で呟きが聞こえた。

「薄い膜が張ったまま捕まえてる感じだったんだ、ずっと。嘘がないのは分かるのに、いつでも消えたがってるみたいで・・・。どうしたら沙喜を安心させてやれるのかってそればっかり考えてたよ」

ナオさんの静かな声に、俯いたままそっと躰を離す。

「・・・・・・わたしは何も持ってないの。頑張ったんだけど、やっぱり母には愛されなかったし、前の夫もわたしが要らなくなった。どう頑張ればよかったのか、何が悪かったのか自分じゃ分からない。だから望んだりしないで、望んでくれる人が望むように、ただいようって思ってた。・・・もうね、ずっと壊れてるの、わたし」

今まで誰にもしたことのない告白。
ナオさんがわたしを手放したくなったなら。
それでもいい。
色のないこのセカイに漂い続けるだけ。
・・・なにも変わらないだけ。

「“先生”なら直してくれそうな気がしたの。でも“手遅れ”だって思うんだったら、・・・今ここでわたしを振って」