「俺も沙喜も、ずっと孤独だったんだな・・・」

ぽつりと聞こえた呟き。

ああ。そうなんだ。これをそう呼ぶんだ。
ずっと、誰かといても一人の気がしてた。

ナオさんといると、ちゃんと“二人”だった。
全部がわたしに向いていた。眼差しも、声も、心も。
抱き合って寂しいことなんて、一度もなかった・・・・・・。

瞬間。今までで一番強烈に、ナオさんを失いたくない衝動が刻まれた。理屈じゃなく感情で。種火だった炎が一気に煽られたみたいに。

百年の氷が、溶け落ちたみたいに。

「・・・ナオさん」

そっと躰を離して顔を上げた。微かに揺れている彼の眸を見つめて。

「離婚したら子供には一生会わせてもらえないし、せっかく開業したクリニックだっていられなくなる。それに慰謝料と養育費、家のローン、奥さんのお父さんにも資金を全額返済しなくちゃいけないって。どうにかなるって簡単に言える金額じゃないわ。現実を考えて、それでも? ナオさんとわたしは幸せになれる?」

なにを引き換えにしてもいい、と。答えが欲しかった。
愛には代えられないと、恋愛小説みたいな科白でもよかった。

哀しい決意のほうがきっと強く、わたしを(ほど)かないだろう。惜しんでくれるだろう。・・・そんな感傷に囚われていた。