「それより中身のことなんだけど・・・」

自分から時計の針を進めるように、わたしは言った。
ナオさんはようやく腕の力を緩め、息を吐く。

「見せて」

躊躇なく封筒の口を開き、中から書類を取り出すと、真剣な表情で文面を追っていく。・・・2枚、3枚。

そして読み終えた彼はもう一度息を逃して、こっちを見やった。

「・・・俺はこの条件を飲むつもりはないよ」

ない。・・・って。でも・・・っっ。
口を開きかけたのをナオさんは、ゆっくりと首を横に振って儚げに微笑む。

「意味がないだろ、それじゃ。愛人としてなら沙喜の相続権も認めるとか、子供ができたら認知していいとか。・・・他人の人生を自分の駒だと思ってるんだよ、彼女は。俺は俺の人生を、沙喜の夫として生きていく。離婚の意思に変わりはないから」