仕事終わり、降りる駅で待っててくれたナオさんが久しぶりに、あの定食屋さんに連れていってくれた。
それからマンションに戻り、時間を惜しむみたいに抱き合って、わたしだけ熱を上げさせられたあと。

水色のその封筒をナオさんに見せた。

「・・・彼女がいつ?!」

驚いたというよりは険しい表情で。

「なにを言われた?」

思わずたじろいで目を伏せると、はっとしたように抱き寄せてくれる。

「ごめん沙喜。そんな直接的な方法で来るなんて思ってなかった。彼女の性格からしたら、ぜんぶ弁護士に任せるだろうって思ってたんだ・・・!」

「わたしは大丈夫。ひどいことされた訳じゃないし・・・」

「されてなくても、嫌な思いをさせたのは俺だろ。ほんとにごめん・・・っ」

苦しそうにナオさんは『ごめん』を繰り返して、わたしを閉じ込める腕に力を込めた。

彼の切羽詰まったみたいな声に。・・・そうしてどんどん渦の中に飲み込まれていくんだろうって思った。

きっと今ならまだ逃げ道もあるって分かってた。
もしわたしが。『もう巻き込まれたくないから別れる』と言えば、ナオさんは悲しそうに笑って終わりにしてくれる。

他に選べる未来も、セカイもあるって知ってる。でも。
わたしは望んでいる。

壊れて傷付いて、限りなく優しく残るものを。
欠けてるかぎり、埋め合おうとして続くものを。