クリニックの午前診療は12時半まで。午後の診療が始まる14時半まで2時間の休憩を挟む。
わたしは基本12時から13時までがお昼休憩だから、重なってる30分の間にナオさんが電話をくれたりもする。

『今日の夜、行くよ』

診察台の上でマスク越しに聴く声と、スマートホン越しに聴く声ってやっぱり違うかな。先生の時は爽やかな感じだけど、今は低くて甘い。

『知ってる? 沙喜の舌ってね、いつも俺の指を追いかけてくるんだよ?』

クスクス笑われてるけど、やだ、そんなの知らないったら。
恥ずかしくなって一人で顔を赤らめる。社長もみんな留守でよかった。

「そういうこと言わないで、ナオさん・・・!」

『だから可愛いなって思って』

「もうっ」

『俺って愛されてるなぁって、しみじみしてるとこ』

それはもちろん愛してるけど。口の中で、もごもご言う。

『今の、聞こえなかったからもう一回』

ときどき『先生』口調で優しく命令されると、心臓より、もっと奥の奥がきゅっと締め付けられる気分になる。

「だから・・・っ、愛してる、って・・・っ」

『俺も愛してるよ、・・・沙喜』

真面目な声の不意打ち。・・・ナオさんは出会ってからずっと、わたしを甘やかし続けてる。