「ご自身で確認してください。・・・そちらには受け取っていただく義務があると思いますので」

彼女の目線は差し出している封筒に落ちていて、こっちを見ようとはしていない。きつい口調でもないけれど、非がある方に拒否権はないと突き付けるように。

お帰りくださいと、取り合わずに無視するべきか。
賭けみたいな判断を余儀なくされる。
彼女がこうして直接わたしに接触してきたのは、ナオさんに何も話せないと思ってるからだろうか。じっと耐え忍ぶ女だとでも・・・?

相手の出方を試してみるしかないと、気持ちを落ち着かせて口を開く。

「・・・でしたらそれは・・・吉見先生に渡してくださって結構です。わたしの一存では受け取れませんので」

すると。視線を上げた彼女はさらに無表情にわたしを見据えた。

「立場をわきまえてください」

高めのトーンは事務的、・・・どちらかと言えば機械的に聞こえた。

「これ以上、無駄な時間を割くつもりはありませんから」

そう言って躊躇なく一歩前に踏み出した彼女が、封筒を胸の辺りに押しつけてきたのを咄嗟に手が伸びて。
わたしがそれを掴んだのを見届けもしないうち、ヒールの音はあっという間に遠ざかっていった。