お蕎麦屋さんを出てしばらくすれば、人家の灯りもまばらになり。道路灯だけのうねる山道をスムーズな運転で登っていくナオさん。
時折すれ違う車もあるけれど、まるで誰もいない世界に入り込んでしまったみたいで、なかなかスリリングなドライブだ。

やがて。鬱蒼とした木々が不意に途切れたなぁと思ったら。そこだけ何かを切り取ったように視界が開けていた。

「ここだよ」

広くなっている路肩に車を停めて、わたしの手を引きガードレ-ルの際までやってくる。
空と地上の切れ目も分からないくらい、広大な闇色のキャンバスに描かれた光りの点描画。

塊になっていたり、帯だったり。強かったり優しかったり。
こうして見下ろすと、ひとつひとつの点が本当に小さくて。

そこにいると。街に、人波に、音に、声に。巨大ななにかに閉じ込められて出られない気がするのに。

上から覗くだけで抜け出せたような。
本当は誰も自由なんだって。・・・思い出せたような。


「・・・・・・すごい解放感」

深呼吸して空気を吸い込む。

「夜じゃないと味わえないかも」

わたしが言うと、ナオさんが少し目を見張って甘く破顔した。

「沙喜ならそう言ってくれるって、思ってた」