スマホを耳に、立ち止まっていた足のほうが先に反応した。
小走りになって通りに出ると、店舗より手前でハザードを点滅させていた黒のスポーツセダンが、ゆっくり発進してわたしの前で停車する。

半袖のポロシャツに生成り色のパンツ姿で、爽やかな笑顔を向けるナオさん。
助手席に乗り込んだわたしは、思わないサプライズに顔が緩みっぱなしになりそうだ。

「ちょっとドライブしようか、沙喜」

「わたしはいいけど、・・・いいの?」

「今日は大丈夫。せっかくだし夜景でも見に。どう?」

「行きたい!」

即答すれば、嬉しそうに眸が綺麗な弧を描いた。

エアコンが効いた快適な車内で。ずっと片手を繋ぎ、信号待ちのたびキスをする。付き合いたての恋人同士みたいに。

会えた回数と時間を足しても。告白されてから今までの、どのくらいだろう。
少しでも余白を埋めるように。
目を合わせ、唇だけでも重ね合わせるのだ。