残暑と。台風の脅威も笑い話ですまなくなりそうな今日この頃。
いつもの閉店作業を終えると、着替えるために急ぎ足で、鍵のかかる物置兼更衣室に向かう。

うちの会社は社用の携帯電話が無い代わりに、仕事中でも私用スマホの携帯は許されていて。もちろんマナーモードにしてあるけど、必要ならその場で着信に応答してもいいくらいに融通がきく。

ナオさんから着信があったのは4時前。今日は土曜で午後の診察は3時まで。会える連絡かもと期待が膨らむのを、半分は冷静に、違う可能性を残しておく。
ちょうど社長に同業者の来客があったから電話には出られず結局、退社時間になるまで折り返しもできないままだった。

「お先に失礼しま~すっ」

「お疲れさま! 気を付けて帰ってねー」

郁子さん夫婦に挨拶もそこそこ、裏口から出た瞬間に手にしていたスマホをタップしてナオさんにかけ直す。
もう出られないかな。不安と焦り。

『沙喜?』

でも拍子抜けするほどすぐに繋がったから、まるでもんどり打つ勢いの慌て口調で。

「ナオさん、ごめんなさい! 電話おそくなっちゃってっ」

『大丈夫だよ。仕事終わったの? お疲れさま』

「うん、いま終わったとこ! ナオさんは?」

『その彼女を出待ちしてるところ』

「!」