バレンタインもとうに過ぎて、いつ渡せるかも分からない先生宛てのチョコレートは冷蔵庫に眠ったまま。

ユウスケとの関係を終わらせて、時計の針が違う進み方をするんじゃないかって。・・・漠然とした期待も、なんだか停滞気味だ。



のんびり社長の下で平和に一日の仕事を終え、自分の駅に降り立った。
電車に乗っている時間は5分あるかないか。車通勤だったら片道20分くらい。駅から歩く時間を計算しても、それほど変わらない。

改札を抜け、冷蔵庫の中身を思い浮かべながら、少し長い階段を小刻みに下りていく。と。

「沙喜!」

耳に飛び込んできた声に、危うく最後の一段を踏み外すところだった。

「先生・・・?」

目の前に立ったチェスターコート姿の男性。ニットと濃色の細身のパンツのカジュアルな格好は、部屋に来た時より若く見えた。・・・なんて失礼かも。

「待ってたんですか?」

退社時間は毎日ほぼ一緒。乗る電車も。
時刻表を調べて一駅分の乗車時間を計算したら、会える確率は高いと思う。けど。

「びっくりしました、いきなりで」

まだ目を丸くしたままのわたしに、先生は悪戯気味に目を細めて笑う。

「ちょっとだけ時間が取れそうだったから、会いたくて来ちゃったんだ」