エアコンの暖房で温まってきた、ダイニングキッチンのテーブルに向かい合わせで座り、黙ってマグカップの珈琲に口を付けているユウスケ。
昼間に来たこともなければ、連絡もなしに押しかけるなんてマネも一度だってなかったのに。

わたしの休みは知っているから、外回りの途中で寄ったんだろう。見慣れたスーツ姿。・・・見慣れた冷めた表情。

沈黙がいたたまれないというより、この状況を一秒でも短く完結させたくて。
自分から切り出す。

「・・・・・・いきなりどうしたんです? ここに来る理由はないと思うんですけど」

鈍い音が響いて。オーク色の天板に、陶器のマグカップが置かれた。
少し神経質そうで知的な印象を与える面差しが、こっちを見据えて溜息を漏らす。

「どうって。返事をしにきたに決まってんだろ。・・・勝手に終わった気でいるなよ」

「勝手に、・・・って。返事もなくて一週間以上も経ったら、ふつうは終わってるでしょう」

唖然とした。どんな理屈よ。
それより、ユウスケが納得していないのがありありとしていて、まさかと思った。

「謝ってくるだろうって待ってたんだよ。サキが俺を試して、バカなこと言い出したと思ったからな」

思わず。目の前にいる男を凝視してしまった。
こういう人だって分かってなかったワケじゃないけど。

彼の中でわたしはどんな女だったんだろう。
文句ひとつ言わないで、いつ来るかも知れない男を待つけなげな愛人?
そんな素振りが、今までのどこかにあった?

思ってもみない方向から飛んできたボールが、ミットを逸れてそのままバックネットに当たり、地面に転がる。
それをどう投げ返せばいいか、そもそも拾うべきなのか。

頭の中でできる限りシミュレーションして。
慎重に言葉を選んでいく。

「・・・・・・送ったとおりで、試すとかそんな面倒なことしないわ。好きな人がいるのも本当だし、お互いに干渉しあう関係じゃないでしょ、わたしとユウスケは」