「昔の人ってすごいね、手紙や電報でやり取りしてたんだから」

わたしの視線に、気を取り直したようにクスリとすると、思案気味に言う。

「公衆電話くらいしか思い付かないな。ごめん沙喜、もう少し我慢して。・・・今ちゃんと考えてる」

最後のほうは決意を秘めて、自分に言い聞かせているみたいだった。


先生が抱えている“傷”を。
わたしが癒せるのかなんて。

本当は分からない。

でも。
独りでなにかに立ち向かおうとしてる、このひとを。
ここで待ってあげたいと思ってしまった。
わたしがいる、って。言ってあげたくなってしまった。

ふたりとも壊れてしまったら。
わたしもそこで終わればいい。今度こそ。

引き留めるものも、ないだろうから。


「本当に・・・なかなか不自由な関係になりそうですね」

ふっと息を吐き、零れた苦笑い。

「面倒な男でごめんな」

「・・・お互いさまかもしれませんよ?」

わざとらしく意地の悪い言い方で。

「恋愛はそういうものでしょ」

涼し気に切り返して先生は唇を寄せ、離れるのを名残惜しみながら帰った。



わたしはわたしで。
ユウスケとの関係を終わらせないといけない。

真っ黒いスマホの画面をぼんやり見つめ、いつかこんな日が来たはずだ・・・と。
深く息を吸った。