耳許に寄せるように、切ない囁きが零れたのを。
胸がきゅっと掴まれた思い。

でも。どう答えるべきかをわたしは惑う。
どの温度で返せばいいのか。自分の立ち位置が定まってもいないのに。

噤んだままのわたしに先生は、「怒ってるの・・・?」と訊ねる。
不安。躊躇い。()い交ぜに。

「・・・怒ってないですよ」

「怒ってくれないの?」

「そうしていいのか分からないので・・・」

「俺はそうして欲しいよ」

「鬱陶しく・・・ないですか」

「どうして?」

「・・・だって」

「付き合ってる恋人を鬱陶しいなんて、思うわけないでしょ」

困った子だね、と先生が笑んだ気配がした。

「沙喜は怒っていいし、言いたいことを我慢しなくていい。当たり前だけど、俺もそうするよ」