「新宮さん、どうぞ」

ピンク色のマスクをした助手の女の子が、愛想良くアイメイクばっちりの瞳で笑みかける。

案内された診察台に座るとエプロンをかけられ、「お待ちください」とインターバルが与えられる。

パーティションで仕切られた隣りから、先生が患者さんと話す声がよく聞こえた。
親身になって、丁寧に説明している。けっして事務的に答えたりはしない。
そういうところ、とても尊敬できる歯科医だと思う。・・・贔屓目かな。

自分で自分に苦笑していたら。治療が終わったらしく、見えない向こう側が賑やかに。

先生の「お大事に」の声がして、心臓がことん。と少しだけ音を立てた。

ん。でもたぶん平気。
ユウスケとも、職場ではただの上司と部下だった。
誰も気付いてなかった。


「おはようございます新宮さん。お待たせしました、宜しくお願いします」

今までと変わらない先生のトーン。優しそうに弧を描いた眸も、いつもどおり。

「おはようございます。よろしくお願いします」

「痛みとか、どうでした?」

「特には大丈夫でした」

医師と患者の当たり前のやりとり。時折り目を合わせ、笑顔も普通に。

「じゃあ始めていきますね」