その夜は。マンションまで送ってもらい、遠慮したのに玄関先まで先生はついてきてくれた。

『珈琲でもどうぞ』

・・・とは言えなかった。たぶん戸惑っていた。

カラダだけの割り切った関係をほのめかされたら、招き入れていたかもしれない。勿体ぶりもしないで。

レンアイって。
どうやって進んでくものだったかを。咄嗟に思い出せなくなっていた。

先生を見上げてどんな表情をしていたのか。
言葉を詰まらせて俯くわたしの頭を撫で、『・・・キスだけさせて』。

低くて甘い、色気の滲んだ声がそっと舞い降りた。






ドアの内側で抱き締められ。後頭部をホールドされて、上を向かされた。
最初は、啄まれては離れ、の繰り返し。
舌で下唇をなぞられ、無意識に半開きになると。
しなやかなイキモノに口の中を追いかけられた。

優しく貪られるキスに理性は半壊しかけていた。
そのまま抱かれてもよかった。

でも先生はそうしなかった。
名残惜しそうに、抱き締める腕を解いてはキスを。

『・・・好きだよ、沙喜』

浮かされるように何度も囁いた。




奥底が、きゅうと鳴いて。鳴き続けて。
離れがたさを必死に殺すわたしを。先生は。

『また来るよ』

残酷なほど、愛おしそうに微笑んで。
置き去りにした。