半年前くらいにオープンした、吉見(よしみ)デンタルクリニック。
うちのお店からだと歩いて6、7分くらい。ちょうど駅までの中間地点。

その前はいかにもな古い家が建っていて、更地になったって話を郁子さん達ともしているうち、歯医者さんが出来るんだと同業者さんからの噂が届いた。

ネットで口コミを検索してみたけれど、診察も丁寧だったと評価はまあまあ。
ホームページの控えめな写真を見るかぎり、若すぎず年寄りでもない、ちょうど脂の乗ったいい具合の年齢の先生。あっさり目の、わりと整ったルックスだった。
歯医者さんは、顔より腕。治療が下手とか、痛いとか、とにかくそんなのはカンベンしてほしい。

ともあれ緊張しながら真新しいクリニックの自動ドアをくぐり、受付を済ませる。
待ち合いスペースの長イスは、4人目のわたしで満席。
普通は予約制だし、当日いきなりの患者は受け入れてくれない歯医者さんもある。そういう意味では良心的?

電話応対してくれた女性と受付の女性が同じだったらしく、問診票を渡すとき、『歯の痛み、我慢できますか?』と本当に心配そうに覗き込まれた。
変な緊張がちょっとだけ解けたし、なかなかの好印象。
誰かにもオススメできそうかな。 


「新宮さん。新宮沙喜(しんぐうさき)さん、どうぞ」

濃色で清楚なワンピース型のユニフォームを着た若い女性に笑顔で名前を呼ばれ、入り口には仕切りがないオープンな診療スペースへと案内される。

右奥の診療台に座り、先生の腕はアタリかハズレか、そればっかりが気になりながら待つこと数分。

「お待たせしました、新宮さん。はじめまして、担当の吉見です。宜しくお願いしますね」

水色のマスクで、実物は目と鼻の形くらいしか分からなかったけれど。
弧を描いた涼しげな目許は嘘っぽくなくて。
このひとなら大丈夫かな。・・・なんて根拠もなく、取りあえず思った。