わたしの部屋まで送ると言って、住所を訊ねる素振りもなく静かに車が滑り出した。
あえて。言ってみた。

「先生。わたしのマンション、ご存じです?」

「だいたいかな。分からなくなったら訊くね」

「患者の情報を悪用してますね」

意地悪く笑ったら、「したことがない」と真顔で否定された。

「沙喜がはじめてだよ。・・・自分でも驚いてる。患者にだけは手を出さないって決めてたのに」

ちゃん付けじゃなく呼び捨て。
一段低くなったトーンは、切羽詰まっている風にも聞こえた。

「信じろとは言わないけど、たぶん一目惚れだった」