「ご飯、まだでしょ。付き合ってもらえる?」

口調もくだけて、雰囲気も和らいでる。オトナの余裕ってヤツ?
ユウスケよりは上。・・・わたしと、(とお)くらいは違うかも。

「・・・わたしはかまわないですけど、奥様、用意して待ってるんじゃありません?」

指輪はしていない、でも。この見栄えで、このスペックで。独身なんて有り得ない。
吉見先生は一瞬、視線をこっちに流して淡く微笑んだ。

「今日は遅くなるって言ってあるから」

確信犯。・・・なるほど、こういう人でしたか。

「それなら、先生にお任せします」

「いいの?」

「いいですよ」

「ん。分かった」

愉しそう? 嬉しそう?
伸びてきた手が、バッグの上に置いていたわたしの手を包み。優しく指を絡めた。



次の信号待ち。闇に紛れるように。

ひどく好みだと気付いたその顔に目を奪われながら。
寄せられた唇を受け止めていた。