自分の意思で動かすこともできなくなった体に、どれだけの不安と絶望を抱えていただろう。ベッドの上でひとり耐えてきたはずのナオさんの髪を撫で、「大丈夫。・・・大丈夫だから」と子供をあやすように言い続けた。

ひとしきりの涙に膿んでいた感情を流し去れたのか、渡したティッシュで男らしく鼻をかむと照れ臭そうに眉を下げ、笑う。

「俺のほうが歳上なのにね。ごめん、みっともないとこ見せた」

首を横に振って見せれば。ひとつ深い息を吐き、「沙喜」とあらたまった。

「こうなったのが“代償”だとは思ってないよ。・・・思い描いてた予想図とは違ったけどね」

わたしが知ってる吉見直彦の顔をしていた。眼に力が戻って見えた。