『すみません、突然。実は来週の予約のことなんです』

このあいだ型取りしたモノが出来上がる日数を計算して、来週の金曜日に予約してあったはず。頭の中で思い返す。

『僕の都合で申し訳ないんですが、休診することになってしまって。週明けの月曜日に振り替えられるかのご相談で、お電話したんです』

月曜なら問題ないでしょう。
スマホを耳に当てたまま移動して、デスクスペースの壁にかけられたホワイトボードに目をやる。業者の来客も午後だし。

「大丈夫です。時間は9時半でもよろしいですか?」

『はい。・・・ああ、良かった。あんまり放置しておきたくないから、本当は早く診たかったんですよ。染みたりしてないですか?』

「それはないので、一日二日くらいの延期なら気にしないでください、先生」

聞こえた声が気にしている風だったから、わざと明るく笑って返した。

『とは言ってもね、大事な患者さんなので心配なんです』

「お医者さんの鏡ですねぇ、先生は」

大事な、なんて言われて心臓がちょっぴり跳ねるとか。
電話でよかった。顔見えてなくて。

『心配ついでに、駅まで送りますよ。もう仕事は終わりでしょう?』

「え?」

『今、新宮さんのお店の前に車、停めてるんです。お詫びもかねて、送らせてもらえると僕の気が済むんですが』