「わたしも縋ってるの・・・」

スタイリング剤の香りも何もしない黒髪に額を寄せる。

「あげられるものが無いのに、ナオさんの全部がほしいの。空っぽなのをナオさんに埋めてほしいの。ナオさんじゃないと埋まらないの。だから残りの人生をわたしに下さい。・・・嫌がっても聞きませんけど」

言って体を離すと、ナオさんがじっとわたしを見つめていた。眸の奥が揺れていた。

人生が変わってしまったのだ。臆病にもなるだろうし、想像もしてなかった未来を受け容れるのだって容易いことじゃない。離婚という大きな決断をした時には見せたことがない苦悩の色。

「・・・・・・・・・本当に俺でいいの」

長い沈黙があって、弱々しく吐き出された声。

「他に誰がいるの・・・?」

「沙喜ならもっと」

「ナオさんしか要らない」

遮ってきっぱり言い切った。