そう。笑って、沙喜って呼んでくれるだけでいいの。
愛してるって言ってくれるだけでいい。
両脚が動かせなくても。
二人でなら生きていける。
これからもずっと。

「・・・三ツ谷に聴いたね、俺の体のことは」

目を見ながらしっかり頷き返す。

「医師の端くれとして言えば、リハビリ次第で多少の回復は期待できると思う。いま下半身の感覚はほとんどないし排泄も自分じゃできない。退院できたとしてもどの程度、普通に近い生活ができるか分からないんだ。沙喜が苦労するのは目に見えてる。だから」

ひとつひとつ、確かめるように言葉を紡いだナオさんが小さく息を吐く。

「結婚してくれとは言わないよ。沙喜を愛してるから言えない。俺はもう歯科医には戻れない。他に何が出来るのか、一からなにかを始めなくちゃならない。・・・夫として経済的に支えてやるのも、きっとすぐには無理だ。沙喜にぜんぶ背負わせるのを傍で見てるだけの辛さに耐えられる自信がない。沙喜の重荷になりたくない。沙喜を幸せにしてやれる自信がない。・・・これが本音だよ、俺の」