マンションを出てから、三ツ谷さんのハイブリッド車でおよそ1時間半。連れて来られたのは大きな総合病院の外科病棟だった。

315号室。6人部屋だろうか、扉脇のプレートは5人分。吉見直彦の名前もあった。三ツ谷さんがドアハンドルに手をかけたとき、心臓が大きな音を立てた。無意識に深く息を逃し前を見据えた。

左右に分かれた3床ずつのベッド。顔を合わせた患者さんと見舞いの家族に小さく挨拶をしながら、左奥へと近付いていく彼のあとをついて。

カーテンが引かれててまだ様子は分からない。三ツ谷さんはそのまま窓側に回り声をかける。

「吉見、新宮さんを連れてきたよ」

「・・・ありがとな、三ツ谷」

少し弱々しかったけど聞き間違うはずがないナオさんの声に、もうそこで涙が溢れてしまっていた。

「・・・・・・ナオさん・・・」

「・・・沙喜ごめん、心配かけて」

少し角度を付けたベッドに横たわったナオさんは、顔に傷はなかった。掛け布団で見えない胴体や脚、患者衣の下がどうなっているかは分からない。点滴の痕が残り、落ちたときの痣か痛々しさの残る腕をわたしのほうに伸ばして、ナオさんは変わらない笑顔でそう言った。