映画を観終わった後、僕らは喫茶店に立ち寄ることにした。お互いにミルクティーを注文し、甘い味に舌鼓をうつ。
「鈴葉、映画の感想は?」
片手でミルクティーを啜すすりながら僕は質問する。
「感動しましたよ? 誰かさんが笑わなきゃ、最高だった」
彼女は両手でミルクティーを啜りながら、眉を寄せた。先ほど僕に笑われたことを気にしているらしい。頬を膨らませる仕草が、とても愛しく思える。
「号泣してたもんな」
「う、うるさい!」
「ははっ」
笑った瞬間。僕の体を襲った猛烈な痛み。
「……うっ……」
「蓮くん?」
気がついた時にはもう、痛みは過激さを増し、呼吸困難に陥る寸前だった。
「はっ……はっ」
「蓮くん!」
慌てた彼女が、咄嗟に手を差し伸べる。
次の瞬間、自分のとった行動に目を疑った。
どうしてそんな行動をとってしまったのか分からない。鈴葉もまた、驚いていた。
僕は差し伸べられた鈴葉の手を振り払ったのだ。
「……ごめん」
「……ううん! 大丈夫……」
彼女は戸惑っていた。
この状況は、以前見た夢と酷似していた。彼女の手を振り払う行為が、正夢になってしまったのだ。これから僕は彼女をこうして傷つけてしまうのだろうか。それはなによりも堪えがたい苦痛だった。
最悪な結末を突き進む僕の妄想は止まることを知らない。
「鈴葉……ごめんな」
荷が重すぎたのだ。僕のような人間に人を幸せにする力はなかった。それだけの話。
「蓮……くん?」
霞かすむ視界に、うっすらと映り込む愛しい姿。
目に涙をいっぱいに溜めて、彼女は堪えていた。
「やっぱり無理だったんだ……鈴葉、別れよう」
僕は椅子から立ち上がり、彼女の頬に触れる。悲しみを秘めた瞳は、潤んでいた。
「なんで……なんでよぉ!」
ごめんね鈴葉。僕は本当に自分勝手だ。
「ごめんな」
異常事態に周りがざわめき出す。数分後、到着した救急隊員の目に飛び込んできたのは、倒れ込む男の名を必死に呼び、泣き叫ぶ少女の姿だった。
ねえ海愛。君はまた、泣いてるの?