《14日目》

朝の風が少し肌寒くなってきて、セーターを着て屋上に出た

今日は誰もいない

ただ1人静かな場所で雲ひとつない空を見上げていた

冷えた風が体のいい具合に当たって気持ちいい

どれくらいいたか覚えていなかったけれど、しばらくして、ガチャ、とドアの開く音がした

振り返ると、パンを持った國充の姿が見えた

あ、来た


「あ、先越されたー」

そう言ってパンの袋をあけて食べ始めた


「やっぱり朝屋上で食べるパンは最高だよな

奈穂はもう食べたの?」

「家で食べてきた」

「パン?」

「ご飯」

「ご飯派か」

「パン派?」

「あったりまえだろ」

「朝はご飯」

「いや、パンだね!」


ついにここでも出たらしい

朝食のパン派ご飯派問題

ここまでぱっくりと割れるとは思いもしなかった


「奈穂の家って、毎朝どんな朝ごはんなの?」


先程までと全然違う落ち着いた声で聞いてくる

私の家の朝ごはん…か


「ご飯と、お味噌汁と、焼き鮭とあとはちょっと野菜の和え物的なやつ」


多分、一般の家庭で出るものとさほど変わりはないだろう


「は!そんな豪華なの!」


國充があまりに驚いた目でこちらを見てきたので、私が逆に驚いてしまった


「普通でしょ」


「奈穂、幸せものだな」


私…そんな幸せものでもないと思うけどな


「朝からお母さんそんなもん作ってくれるんだな」


「作ってくれないよ」


「え、じゃあ自分で作ってるの?」


私は頷いた

朝食を作るなんて、もう慣れっこだ


「凄いな、お前」

國充が感心している、らしい


「別にすごくなんかない」


躾の厳しい親が怖くて、必死になってただけ

必死になって料理を覚えた

朝食を作れる程度にはできるようになった

だけどほんとは、料理なんか好きじゃない

いつの間にか、習慣化してしまっただけだ


「凄いだろ、俺なんかいつもそこに置いてあるパンを持って登校してんのに」

これがないものねだりなのかは分からないけれど、羨ましく感じた

放置されてる環境が、羨ましい


「逆だ」

「考えてみれば、全部逆だな俺たち」

「そーかも」


出会ってから今まで、もしかしたら共通している部分を見つけられていないかもしれない

ひとりに嫌気がさしてきていたこと以外


朝の日差しが心地よくなってきて、そのまま寝てしまいそうになった私は、今日もここに逃げてしまうんだ