《10日目》
「なあ、おとぎ話ってなんであんなにみんな好きなの?」
「いきなりどーした」
「近くの保育園のお遊戯会でさ、人魚姫やるんだと
近所の子供たちが人魚姫やりたくて喧嘩してたからなんでかなあと思って」
人魚姫、か
おとぎ話の定番中の定番
きっとみんな、人魚姫が可愛くてやりたいんだろうな
「おとぎ話がみんな好きかわかんないけど、お姫様はみんなやりたいんじゃない?」
「お姫様ってそんなになりたいもの?」
「みんな一度は憧れるよ」
「奈穂もお姫様に憧れてた?」
「…うん」
小さい頃、私はお姫様になりたかった
継母に一人だけ好かれない、悲劇のヒロイン
運命のと王子様に出会える、勝利のヒロイン
幼き頃の私は、かっこよくてハッピーエンドのお姫様に惹かれたんだ
「でも、本当の話は違うって知った時、お姫様になりたくなくなった」
「本当の話?」
國充は、おとぎ話について本当に興味がなかったらしく、なんにも知らない様子だった
「人魚姫は、最後、王子様とは結ばれずに、泡となって消える」
「ハッピーエンドじゃねーじゃん」
私は頷いた
原作のお姫様は勝利のヒロインなんかじゃなくて、最悪な結末を迎えてしまうのだ
結局勝つのはお姫様でも王子様でもない
──悪役だった
「全然俺らの知ってるおとぎ話と違うのな」
それを知った私は、かなり強い衝撃を受けた
今まで信じていた物語が、崩れ果てた瞬間だった
「でも、残酷な結末でも、主人公は悪役じゃないんだな
ハッピーエンドを迎えるのは悪役なのに、悪役は悪役のままで主人公になれないのな」
國充の考えに私はいつも驚かされる
悪役なんて考えたこともなかった
悪役は悪役、そういう固定概念にいかに自分が縛られているか思い知らされた
「主人公が主人公でいられるだけ、まだ幸せなんだろうな」
「なんで?」
「だって主人公ならば、それを読んでいる人達に共感されて可哀想って思われるだろ
だけど悪役はそうじゃない
憎まれて、殺されて終わりだ
それ以上なんの感情も読んでいる側はもたない
そう思うとさ、
本当に可哀想なのは悪役だよな」
「みんな、素直なんだよ」
そんな深いことなんて、考えないから
多くの子供たちは、主人公の敵になる悪役を嫌う
みんな主人公になりたいだけなんだよ
「人はいつから、ひねくれるんだろうな」
「結末に裏切られた時からじゃない?」
「そーかもな」
私たちは主人公になれないかもしれないけれど、ハッピーエンドを待っている
それは今も昔もきっと、変わらない
「なあ、おとぎ話ってなんであんなにみんな好きなの?」
「いきなりどーした」
「近くの保育園のお遊戯会でさ、人魚姫やるんだと
近所の子供たちが人魚姫やりたくて喧嘩してたからなんでかなあと思って」
人魚姫、か
おとぎ話の定番中の定番
きっとみんな、人魚姫が可愛くてやりたいんだろうな
「おとぎ話がみんな好きかわかんないけど、お姫様はみんなやりたいんじゃない?」
「お姫様ってそんなになりたいもの?」
「みんな一度は憧れるよ」
「奈穂もお姫様に憧れてた?」
「…うん」
小さい頃、私はお姫様になりたかった
継母に一人だけ好かれない、悲劇のヒロイン
運命のと王子様に出会える、勝利のヒロイン
幼き頃の私は、かっこよくてハッピーエンドのお姫様に惹かれたんだ
「でも、本当の話は違うって知った時、お姫様になりたくなくなった」
「本当の話?」
國充は、おとぎ話について本当に興味がなかったらしく、なんにも知らない様子だった
「人魚姫は、最後、王子様とは結ばれずに、泡となって消える」
「ハッピーエンドじゃねーじゃん」
私は頷いた
原作のお姫様は勝利のヒロインなんかじゃなくて、最悪な結末を迎えてしまうのだ
結局勝つのはお姫様でも王子様でもない
──悪役だった
「全然俺らの知ってるおとぎ話と違うのな」
それを知った私は、かなり強い衝撃を受けた
今まで信じていた物語が、崩れ果てた瞬間だった
「でも、残酷な結末でも、主人公は悪役じゃないんだな
ハッピーエンドを迎えるのは悪役なのに、悪役は悪役のままで主人公になれないのな」
國充の考えに私はいつも驚かされる
悪役なんて考えたこともなかった
悪役は悪役、そういう固定概念にいかに自分が縛られているか思い知らされた
「主人公が主人公でいられるだけ、まだ幸せなんだろうな」
「なんで?」
「だって主人公ならば、それを読んでいる人達に共感されて可哀想って思われるだろ
だけど悪役はそうじゃない
憎まれて、殺されて終わりだ
それ以上なんの感情も読んでいる側はもたない
そう思うとさ、
本当に可哀想なのは悪役だよな」
「みんな、素直なんだよ」
そんな深いことなんて、考えないから
多くの子供たちは、主人公の敵になる悪役を嫌う
みんな主人公になりたいだけなんだよ
「人はいつから、ひねくれるんだろうな」
「結末に裏切られた時からじゃない?」
「そーかもな」
私たちは主人公になれないかもしれないけれど、ハッピーエンドを待っている
それは今も昔もきっと、変わらない