「どうしたの?」

そう聞いた夏々子に、
「いや…浮気を問いつめられている亭主の気持ちって、こんな気持ちなのかなって思って」

宗助が気まずそうに答えた。

「あたしが知らないソウちゃんのことを聞いているだけなのに?」

「わかったわかった、僕は彼女のことを“ちーちゃん”って呼んでた。

彼女は呼び捨てで“宗助”って呼んでた」

「ふーん」

夏々子はそう言っただけだった。

「ところで…何で、ちーちゃんが出てきたんだ?」

宗助が質問した。

「今回の事件で殺害されたのは、彼女が弟のようにかわいがっていた部下の男の人だったんだって。

確か…名前は山崎」

「なるほど…そう言えば、ちーちゃんは中学生の時に5つ下の弟を交通事故で亡くしたって言ってたな」

宗助は納得したように首を縦に振ってうなずいた。