つき合うと言っても、苑子とハルは、ただ登下校をともにするだけで、教室で話したりはしないし、放課後も、休日も、どこかへ出かけたりする様子はなかった。だけど。一卵性の姉妹みたいだった私と苑子の関係は、あきらかに、変わり始めていた。
 期末考査が始まり、放課後、私は学校のすぐそばにある真紀の家へ行って勉強していた。新築の一軒家で、真紀は、私が憧れている、自分だけの部屋とベッドを持っていた。
 ガラスのローテーブルにお菓子を広げて、ジュースを飲みながらのおしゃべり。一応、教科書もノートも広げているけど、勉強になんて集中できるはずもない。
「夏休みまでに告白したいなー」
 真紀が頬杖をついてぼやく。やっぱりみんな恋の話が好きだ。
「塩田先輩、だっけ? テニス部の副部長?」
「うん。めちゃくちゃかっこいいんだから。果歩も練習見においでよ」
「いいのー真紀、そんな気軽に誘ってー。果歩ちんが塩田先輩のこと好きになっちゃったらどうするの?」
 森川さんが横やりを入れて、えーどうしよ、と真紀が本気で困った顔をするから、私は笑ってしまった。
「ないない。私、男子に興味ないし。恋愛にも興味ないし」
「だよねー。果歩ってさばさば系だし、そういうの、縁なさそうっていうか」
「ひどくない?」
 森川さんを小突きながら、ふくれてみせる。そうか。私、さばさば系なんだ。いつの間にかできあがっていた自分のキャラを、そっと心に留め置く。
「二宮さんと正反対っていうか。どうして仲いいのか、不思議だよね」
「男子受けするもん、二宮さんって。毎朝、島本の後ろにちょこちょこくっついてくるじゃん? 男子たちがね、最近、二宮ってあんなにかわいかったっけ、とか、噂しててー。あんなあざといしぐさに騙されるんだね」
 また、苑子の話。杉崎くんの一件以来、苑子は真紀たちグループに敵認定されてしまっていた。というかむしろ、絆を深めるための生贄だった。
 真紀たちと一緒にいれば、必ず誰かが苑子の悪口を言い出すことを、私だってわかっていた。
「果歩もほんとは、嫌いなんでしょ?」
 ズバッと、直球が飛んでくる。
 ハルとふたりで坂道を歩く、苑子の後ろ姿。好きなんでしょ、と聞いたときに、ぎこちなくうなずいたハルの、赤い首筋。ふいに蘇って、息が、止まりそうになって。
「我慢して、二宮さんと一緒にいたんでしょ?」
 たたみかけられて。気づいたら、私は。こくりと、うなずいていた。
「だよねーっ。そうだと思ってたー」
 真紀たちのはしゃぎ声が、どんどん遠くなっていく。