六月になった。
 私は今まで通り、苑子と行動をともにしている。学校でも、学校の外でも。真紀たちとも、やっぱりこれまで通り、ほどほどに仲よくしている。だけど、真紀たちが、休み時間にひそひそと何か耳打ちし合っているのをよく見かけるようになった。苑子のことをちらちら見ながら、ときおり、私に意味ありげな視線を投げるのだ。
 あの子たちの気が変わるまで、気づかないふりして受け流すしかない。
「果歩ちゃん。ため息。どうしたの? 幸せ逃げるよ」
 苑子が私の顔をのぞき込んだ。
 昼休み。私たちはふたりで、教室のベランダの手すりにもたれて、だらだら過ごしている。
「私、ため息ついてた?」
 こくこく、と、苑子はうなずく。
 今日は風がなくてひどく蒸し暑い。雲が出てきたし、雨が近いのかもしれない。
「ねえ、苑子。幸せってほんとに逃げるの?」
「逃げるかもだよ」
「でも、幸せのあとには不幸せがくるんだよね? 苑子理論でいくと。それが本当だったら、最初から幸せもいらないって思うけどな、私は」
 大きな幸せをつかんだら、同じくらい大きな不幸せも、あとでやってくるということになる。それじゃ、喜べない。
 苑子は、くすりと笑った。
「いらないって思っても、自分じゃ決められなくない? やってくる幸せも、不幸せも」
「そういうものかな」
「果歩ちゃん。私ね。そろそろ、勇気を出してみようかと思うんだ」
「勇気……?」
「幸せを、自分からつかみにいく、勇気」