私は出来るだけ公私混同を避けたい。それに今だって会社だから『社長』と呼んだのに……。

 普通のことなのに、それの何がイケないの?高城先輩は、いきなりあたしの肩を強く掴んで、ソファーに押し倒した。

「呼び捨てにして欲しいのは、何でも話せる仲になりたいからなんだ。社員とのお酒の付き合いだって、俺は大切にしていきたいと思ってるんだ」

 今の高城先輩の発言に胸がドキドキした。私は平静を装うのに必死になっていた。何でも話せる仲になりたいって、いったいどういう意味?

「高城社長……待って下さい。今のはどういう意味でしょうか?」

「そのままだよ。俺は、愛花ちゃんと仲良くしたいって思ってる」

 なんとなく高城先輩の表情が曇ったように見えたけど、下の名前で呼び捨てにするなんて……私には出来ない。

「まぁ……社長より高城先輩の方がマシだから、それで許してあげる」

「あっ、ありがとうございます。あの……高城先輩、そろそれ離して頂けませんか? 会議に遅刻しちゃいます」

「そうだね……ゴメン」

 力強く押さえつけられた体がやっと自由になった。高城先輩は、私と話すのなんて平気だったかもしれないけど……私は極度の緊張で何を話したのか分からない。

 高校の先輩で顔見知りとはいえ、社長と気軽に話せたらいい……なんて、やっぱりそんな訳にはいかない。

 頭の中ではそう思っていたけど、心の中では別なことを考えていた。

 偶然とはいえ、初恋の人に再会出来るなんて……まるで夢を見てるような気分だった。