昨日は緊張してあまり眠れなかったけど、目覚ましで起きて準備を終えると恭介さんから電話が掛かってきた。

「おはよう愛花。いま愛花のアパートの前まできたよ」

「分かりました。すぐに行きます」

「急がなくていいからな。転んで怪我したら大変だから」

恭介さんは心配性なんだと思いながら、私は部屋を出て恭介さんの元へ向かった。

恭介さんは助手席のドアを開けるエスコートをしてくれ、まさに王子様って感じがした。

何処へ行くのか聞きたかったけど、こういう時の男の人は『着いてからのお楽しみ』って言う人が多いから、あえて聞かずに仕事の話やテレビの話をした。

しばらくすると車は何処かの駐車場へ入った。着いた場所は水族館だった。車から降りようとすると、恭介さんに肩を捕まれ唇を塞がれた。

水族館の中に入ると、恭介さんは巨大水槽をじっと眺めて動こうとしないので、私はそんな恭介さんの横顔を眺めた。

恭介さんは色が綺麗な魚の水槽の前では、必ず立ち止まり数分間は動かないので単純に綺麗な色の魚が好きなのかな?と思った。

『間もなくイルカショー』開始の時間ですと言う館内アナウンスが流れ、私と恭介さんはイルカショーの会場に向かい日陰の席を探して腰を下した。

開始までまだ時間があったので、私は気になったことを聞いてみることにした。

「恭介さんは綺麗な色の魚が好きなんですか?」

「……そうだね。子供の頃にグッピーを飼った事があるんだけど1週間で死んでしまってね。俺が餌を与えすぎたのが原因だった。もう一度飼いたいって我儘は言えなくて、たまに水族館で綺麗な魚を見るのが心の癒しなんだ」

「そうなんですか?でも今は一人暮らしですよね。飼いたいなら飼うことも出来ると思いますけど」

「そうなんだけど……仕事が立て込んでると帰れない日もあるから、そうなると今度は餌を与えられなくて死なせてしまうのが怖くて……だから簡単には飼えないんだ」

私には今の恭介さんは、過去のトラウマと飼いたい気持ちの板挟みになっているように見えた。

やがてイルカショーが始まり、私は写真を撮ろうとしたけど、写真を撮っているとショーをちゃんと見れないことに気付き写真は諦めてショーを見ることに集中した。

イルカショーが終わると私たちは水族館を後にした。