呆然と立ち尽くしていると……高城先輩はゆっくり、私に近付いて来た。

「愛花ちゃんにはやっぱり彼氏居たんだね。社内恋愛だから、俺は誰にも言わないから安心してね」

高城先輩……やっぱり勘違いしてる。あの頃と同じ様に、急に苦しくなり胸がチクッとした。

高城先輩に、誤解されたままなんて……絶対にイヤ。
私はさっきの真相を、高城先輩に話すことにした。

「高城先輩……私彼氏なんていませんから。さっきのは、ちょっとした悪ふざけなんです」

「普通なら女の子から悪ふざけで、キスなんてしないよね」

そこを突かれると、ちょっと痛いけど……私は構わず話を続けた。

「あの……さっきのは挑発されたんです。何でか分からないんですが……それが悔しくて」
「……」

「だから……彼の挑発に乗ったんです」

「どんな挑発だったの?」

「大人なら愛が無くたってキスくらい出来るだろうって……何だか凄くバカにされた気分になったんです」

「……」

「だから告白されてないもないのに、好きでもない男の人に……」

「愛花ちゃん分かったから。もう……何も言わなくていいから」

私は高城先輩から包み込むように優しく抱き締められた。

先輩の胸……スゴく温かくてホッとする。それにかなり居心地良い。

出来る事ならずっとこのままで居たい……そんなの無理だって分かってるけどそれが正直な気持ちだった。

「愛花ちゃん」

高城先輩はゆっくりと口を開いた。

「もっと自分を大事にしなよ。挑発に乗って、好きでもない相手とキスしたって虚しくなるだけだよ」

先輩の言ったことは、最もだと思う。

「はい、これから気を付けます。なんか説得力感じたんですけど……もしかして先輩の実体験ですか?」

「愛花ちゃんって意外と鋭いね。俺も好きだった女の子に告白しようと思った矢先に、その子に彼氏が出来て告白出来なくて……色んな女の子と遊んだ時代があってさ……」

「それで……後悔したんですね」

「あぁ、好きでもない女の子と遊んだって虚しくなるだけだった」