チョコレートキス


なんとなく高城先輩と顔を合わせたくない私は、酔いを醒ますフリをして外へ出ることにした。

「私……ちょっと酔いを醒ましに外に行ってくるから」

「……うん、分かった。もし愛花不在の理由を聞かれたら伝えておく」

「よろしく」

弥生は怪訝な表情を浮かべたけど、笑顔で送り出してくれた。

外へ出ると夜風が気持ち良くて、思わず目を閉じたくなった。

その時、後ろから肩をポンと叩かれた。

「……愛花、大丈夫か?」

「あっ、村上……大丈夫だよ」

「なぁー、愛花」

「ん……何?」

「キスしてくれないか」

「はぁー、何言ってんの」

「子供じゃないんだから……愛が無くたってキスくらい出来るだろ」

なんで好きでもない、村上にキスしなくちゃならないの。

もしかして……恋の噂が無い私をガキ扱いしてる?

そう考えると何だか腹が立ってきて、挑発に乗ってやろうじゃないって気持ちになった。

「そうだよね。子供じゃないんだから」

一歩一歩、村上がこっちに近付いてくる。

村上は私のことを好きだなて、一言も言ってないし……外国人の挨拶みたいなものだと思えば良いと思った。

観念した私は、目を閉じて村上にキスをしようと顔を近付けた時、店の自動ドアが開く音がした。

反射的に入り口に目を向けると、高城先輩が呆然と立ち尽くしていた。

その瞬間、私は条件反射で村上からパッと体を離した。

「悪い……邪魔して」

「……いっ、いえ」

私はそう答えるのが精一杯だった。

高城先輩に彼女がいるのは分かっているけど……やっぱり見られたくなかった。

この状況を見たら、高城先輩……絶対、私たちのこと誤解したよね。

村上は高城先輩に頭を下げて、店に戻って行った。

私はショックが大きく金縛りに合ったかの様に、その場から身動き出来なくなった。